2026年09月12日
のこぎりと目立て屋さん
20年ぐらい前だろうか、地元のある「目立て屋さん」を訪ねたことがあります。

南向きの道路に面した店の引き戸を開けるとすぐに仕事場があり、そこに鉄がしみ込んだ目立て台がありました。
板張りの床に座布団が敷かれた場所、そこは目立て職人さんが座ってのこぎりの目立てをする場所です。
木の柄がついたヤスリが何本もあり、刃の形を切り抜くタガネ。両端の尖った金づちのような道具もありました。
でも、その道具たちはあまり使われていない様子。
ガラス戸棚には、目立てを待つのこぎりと、仕上がったのこぎりが新聞紙に包まれて置いてあります。
壁には料金表が貼ってあります。
昭和49年当時の目立ての値段です。
仕事場の奥庭には土間の作業場があり、そこには、かつて鉄を鍛えたり、焼いたりしていた跡がありました。
「昔は刀も作っていたんだよ」
そんな話も聞かせてくれました。
のこぎりは刃の部分には強度を増すために焼きいれ、焼き戻しが行われるようです。
焼き入れだけでは、鋼は硬くなる一方で、硬すぎてもろくなる。
そこで焼き戻しを行い、硬さと粘りのバランスを取る。
折れないようにしなやかさをつくる技術ですね。
刀鍛冶がのこぎりをつくる。わかる気がしました。
とは言え、のこぎりをつくる工程は見たことがないので、曖昧です。
そして帰り際、私に見せてくれたのが、庭木用の手のこでした。
歯の形や並びを、使い手の用途に合わせて手作りしたものでした。
どこで力を入れて、どのように引いて切るのか。
どんな木を、誰がどう切るのか。
「これが最後の仕事だよ」って聞かされ
思わず刃の形や並びも異なる3本ののこぎりを買ってしました。
まだ、使っていません。
のこぎりの歯は、その用途に合わせて形や並びがつくられ、一つひとつの歯に切るための働きが与えられていきます。
とがった金づちは、刃に反り加工をするために使われる道具であることも分かりました。
木と、道具と、使う人。
その三つの関係が一つののこぎりが作られる。
使えば歯が減る。
無理をすれば折れる。
そして、切れ味が変わる。
そこで「目立て」が必要になる。
目立てとは、傷んだ歯の形や角度、並び、あさりなどを見ながら、もう一度、切れる鋸にしていく仕事です。
これは、大工さんの仕事の1つでもあります。
大工さんの道具は数が多い、その手入れの技術も習得しなければならいのですが、
目立ては刃こぼれしていれば、刃の再生も必要です。
そこで、鍛冶が出来る目立てやさんの登場です。
若いころ、現場でのこぎりを大工さんに借りようとしたら
「おまえに貸せるのこぎりはない」と言われました。
あの時は全く、のこぎりの○○を理解していなかったのでした。
日本ののこぎりは、引いて使うものが多い。
引くことで、薄い鋸でも安定して木を切ることができる。
のこぎりをつくる職人、使う職人、そして目立てをする職人。
木が違えば鋸も違う。
切り方が違えば鋸も違う。
そして、切る人が違えば鋸も違う。
ものをつくる技術と、ものを生かし続ける技術。
薄いのこぎりをつくる職人と、その切れ味を保つ目立ての職人。
その両方があって、道具は長く使われ、使う人の仕事や技術を支えてきました。
そして今、量産型の替刃式の鋸が当たり前に使われる時代になり、
目立て屋さんの姿は街角から見えなくなりました。
道具を長く使うということは、
ものを残すことだけではない。
そこには、道具と向き合ってきた人の技術も、一緒に残っていく。
「ものを大切にする」というより、ものとの関係を切らない。
これも一つのハーモニー。
そんな学びをもらったんだと目立てやさんを思い出しています。